生命の源を届ける:南スーダンの水・衛生支援現場と日本のNPO職員が直面する課題
紛争影響下の南スーダン:生命を支える水・衛生の課題
アフリカ大陸の東部に位置する南スーダン共和国は、独立後も長く続く紛争と政情不安の影響により、深刻な人道危機に直面しています。特に、安全な水へのアクセスと適切な衛生環境の確保は、人々の生命と健康に直結する喫緊の課題となっています。多くの地域でインフラが未整備または破壊され、清潔な飲料水を得ることが困難な状況が続いています。これにより、コレラなどの水因性疾患が蔓延し、特に幼い子どもたちの命を脅かしています。
このような厳しい環境下で、日本のNPOは現地の人々と共に、持続可能な水・衛生(WASH: Water, Sanitation and Hygiene)支援に取り組んでいます。本稿では、南スーダンの現場で活動する日本のNPO職員の具体的な業務内容、直面する困難、そしてそれを乗り越えるための工夫に焦点を当て、その活動の意義を深く探ります。
現場の最前線から:南スーダンの水・衛生支援活動
日本のNPOが南スーダンで展開するWASH支援は多岐にわたります。主な活動は以下の通りです。
1. 安全な水源の確保
- 井戸の掘削と修復: 既存の井戸が機能しない、あるいは水質が悪化している地域において、新たな深井戸の掘削や既存井戸の修復を行います。地下水調査に基づき、持続可能な水源を確保するための技術的な検討が不可欠です。
- 手押しポンプの設置とメンテナンス: 掘削した井戸には、地域住民が容易に利用できる手押しポンプを設置します。ポンプの故障時には迅速な修理体制を整えるため、現地住民によるメンテナンスグループの育成にも力を入れています。
- 水質管理と浄化: 供給される水の定期的な水質検査を実施し、必要に応じて浄化剤の配布やろ過装置の設置を支援します。
2. 衛生環境の改善
- 衛生的トイレ(ラトリン)の建設促進: 野外排泄が習慣となっている地域では、伝染病のリスクが高まります。安全で衛生的なトイレの建設を住民に呼びかけ、建設技術の指導や資材の一部提供を行います。特に学校や保健施設での設置を優先し、子どもたちが安心して学べる、あるいは治療を受けられる環境を目指します。
- 衛生啓発活動: 手洗いの重要性、安全な水の貯蔵方法、清潔な生活習慣などについて、地域の保健ボランティアや教員と協力し、住民を対象とした啓発キャンペーンを展開します。紙芝居や歌、劇などを通じて、子どもたちにも分かりやすい方法でメッセージを伝えます。
これらの活動は、単にインフラを整備するだけでなく、地域住民が主体的にWASH施設の管理・運営に携われるよう、能力強化を重視しています。例えば、水利委員会(Water User Committee)を組織し、ポンプの維持管理費の徴収や施設利用ルールの策定を支援することで、活動の持続可能性を高めています。
困難を乗り越える日本のNPO職員の声
南スーダンのWASH支援現場で働く日本のNPO職員、山田健太さん(仮名、30代)は、大学で国際開発学を専攻し、現場での貢献を志してこの道を選びました。彼が日々直面する課題と、それを乗り越えるための彼の視点を紹介します。
「私が担当するジュバから離れた地方部では、まず治安の不安定さが大きな課題です。移動には常に最新の治安情報を確認し、細心の注意を払う必要があります。時には活動の一時中断を余儀なくされることもあります。また、道路網が未発達なため、資材の運搬一つにしても膨大な時間と労力がかかります。」
「さらに、多民族・多言語国家である南スーダンでは、住民間の歴史的な背景や文化・慣習の違いから、コミュニティ内での合意形成が非常に難しい場合があります。例えば、井戸の設置場所一つ決めるにも、多くの関係者と粘り強く対話し、信頼関係を築く必要があります。」
山田さんはこれらの困難に対し、次のように語ります。「活動を成功させる鍵は、何よりも現地スタッフとの強い連携と、地域住民との継続的な対話にあると感じています。私たちは彼らから現地のニーズや文化について学び、彼らが持つ知識や技術を尊重します。計画は常に柔軟に見直し、予期せぬ事態にも対応できるような体制を整えています。技術的な専門知識はもちろん重要ですが、それ以上に異文化理解、コミュニケーション能力、そして何があっても諦めない粘り強さが求められる仕事です。」
山田さんのやりがいは、安全な水が地域にもたらす変化を目の当たりにすることにあるといいます。「安全な水が供給されるようになってから、水因性疾患が減り、特に子どもたちが健康になりました。女性が遠くまで水汲みに行く負担が軽減され、その分、子どもたちの世話や農業に時間を充てられるようになったという声を聞くと、この仕事の大きな意義を感じます。私たちが提供しているのは、単なる水やトイレではなく、彼らの未来を築くための基盤であると信じています。」
国際協力の未来へ繋ぐ一歩
南スーダンにおける水・衛生支援は、単に人々の健康を守るだけでなく、SDGs(持続可能な開発目標)の目標6「安全な水とトイレを世界中に」の達成に直接貢献し、ひいては貧困の削減、教育機会の向上、ジェンダー平等の促進など、様々な目標に波及効果をもたらします。
国際協力に関心を持つ大学生の皆さんにとって、このような現場のリアルを知ることは、自身のキャリアパスを考える上で貴重な視点を提供するでしょう。国際協力の現場で働くためには、国際協力に関する専門知識はもちろんのこと、特定の技術分野(WASH、農業、教育など)の専門性、語学力、異文化理解力、そして何よりも困難に立ち向かう強い意志と柔軟な思考が求められます。
この分野への貢献方法は、必ずしも現場で活動することだけではありません。NPOのインターンシップやボランティア活動に参加し、実務経験を積むこと。国際協力に関するイベントやセミナーで知識を深めること。あるいは、寄付を通じて活動を支えることや、SNSなどを活用して現地の実情を発信し、社会の意識を高めることも重要な貢献です。
現場からの声は、国際協力の厳しい現実と、それを乗り越えようとする人々の情熱、そして確実に生まれる変化を伝えています。このレポートが、日本の国際貢献と、その未来を担う次世代の皆さんの活動への一助となれば幸いです。